| ザ・ニュージーシネマ(1)『クジラの島の少女』 |
「ロード・オブ・ザ・リング」の大ヒットで、世界中から注目が集まって いるニュージーランド映画界。ニュージーランドには、他にもたくさんの 優れた映画、才能溢れる映画監督や役者もいます。 まだまだ知名度の低いニュージーランドの映画をご紹介します。 ・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・ ■『クジラの島の少女(原題:The Whale Rider)』(2002年) [ストーリー]──────────────────────────── ニュージーランドの小さな村。マオリ族の長コロは、勇者パイケアの伝説を 信じ、後継者となる男の子を待ち望んでいた。コロの長男ポロランギに男女 の双子が生まれるが、男の子は死に、ポロランギは残された女の子をパイケ アと名づける。 それから12年。孫娘に対する愛情が芽生えながらも、後継者は男子と頑なに 信じるコロはパイケアを激しく拒絶し続けていた。そんなある日、パイケア の悲しみに呼応するかのように、クジラの一群が浜辺に打ち上げられる……。 ────────────────────────────────── マオリ族とはニュージーランドの先住民族のことです。 今から一千年以上も前、白人たちがやってくるずっと前に、7艘のカヌーに 乗って、伝説の島ハワイキ(現在のタヒチ辺りにあった島)からはるか海を 渡って、ニュージーランドにたどりついたと伝えられています。 現在、マオリの数はニュージーランド全人口の約15%。マオリを名乗る人々 の大部分がマオリ以外の民族との混血で、純粋なマオリはほとんど存在しな いのではないかといわれています。メディアでは貧困、犯罪、失業など、と かくマオリの陰の部分が取りざたされがちですが、この映画では明るい未来 を予見させるストーリーになっていて、ラストではしばし温かい気持ちにな れます。 この作品は古いしきたりにしがみつこうとするおじいちゃんの悲劇のお話と もいえます。族長のコロは祖父として孫娘を愛していながら、族長として頑 なまでに孫娘の存在を否定します。それでもなお、そんな石頭のおじいちゃ んのことを尊敬し、いじらしいまでに慕う孫娘。おじいちゃんに、自分がパ イケアの血を引く未来のリーダーであることを認められようと、一生懸命奮 闘するけなげな姿は、かわいそうやら、悔しいやらで、「このクソジジイの 頑固者!」と心ひそかに叫んでいたのは、わたしだけではないはず。 彼の凝り固まった考えに妻や息子が反発し、崩れゆく家族の絆。近代化とと もに伝統から離れていくマオリの若者たちへの彼の深い失望。ひたすら何か に固執するというのは、ものすごくエネルギーを要するものです。おじいち ゃんが心労で寝込んでしまうくだりなど、悲劇を超えて喜劇に見えてくるほ ど。そんな風に描くことで、失ってはいけない伝統があるように、時代とと もに変わるべき伝統もあるのではないかと、この映画は問いかけているので はないでしょうか。 「族長は男がなるべし」というのは、そもそも「男尊女卑」の論理に基づい たもの。監督のニキ・カーロがマオリ出身の女性として、どうしてもこの映 画を撮りたかったという気持がひしひしと伝わってきます。パイケアは彼女 自身の思いを投影した存在なのかもしれません。 「未来のために、過去に目を向けよ」というマオリのことわざにもあるよう に、1人の少女の真摯に生きる姿を通して、マオリの人々が少数民族として のアイデンティテイを再確認し、過去をふまえながら新しい出発をするドラ マは見応え十分です。 ただ、硬派でリアルな内容がいきなりクライマックスでファンタジックな展 開に集約されたのには、ちょいとばかし無理があったような気もするのです が、それでも全体的に見ると、低予算映画ながら優れた脚本と役者陣によっ てクオリティの高い映画になっています。 また、「跡継ぎ問題」「過疎化」「因習」「男尊女卑」など、日本にも、女 帝を認める認めないだとか、土俵は女人禁制だとか、過疎化する村だとか同 じようなことがあって、妙に親近感をおぼえられるのも、日本でヒットした 要因かもしれません。よくいわれる「日本人とマオリは同一祖先説」は、な まじっか絵空ごとではないのかも……。 新星のごとく現れたニュージーランドヒロイン、主人公パイケアを演じたケ イシャ・キャッスル=ヒューズ。この映画が観客のハートをがっちりつかん だのは、ケイシャなくしてはあり得なかったでしょう。 人口380万人というこの小さな国に、こんなすばらしい演技をする少女がい たとは、ニュージーランドもすてたもんじゃありません。学芸会で涙をぽろ ぽろ流しながらスピーチをするシーンなんぞ、演技とは思えない名演技に、 どれだけの観客がもらい泣きをしたことか(もちろん、わたしもその一人)。 史上最年少でアカデミー主演女優賞にノミネートされ、ハリウッドから続々 とオファーがきたり、プリンスのビデオクリップに出演するなど、活躍著し いケイシャですが、「子役は大成しない」という映画界のジンクスを打ち破 り、女優道を駆け上ってほしいものです。 「ニュージーランド版『風の谷のナウシカ』」といわれるのもうなずける、 心洗われる秀作。一見の価値ありです。 |
| ※KIAORA MAILニュージーランド掲載 |
| 2004.11.18 |
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